野菜を通じて、顔の見える関係をつくる(前編)
温暖で日照時間が長い浜松市は、さまざまな野菜が生産される豊かな場所。浜松市南区では砂地を生かしたエシャレット、早生たまねぎ、葉ねぎなどが生産されています。「JAとぴあ浜松 ファーマーズマーケット白脇店」で野菜ソムリエとして働く栗原昌代さんを訪ね、地元野菜の魅力について教えてもらいました。
おいしい野菜に導かれて
細葉囲いが残る集落の一角に昌代さんの家はあります。庭先では料理に使うハーブが育てられ、軒先には野菜の入ったかごが置かれています。玄関の呼び鈴を押すと、「いらっしゃい」とエプロン姿の昌代さんが出迎えてくれました。
家族の写真やドライフラワーが飾られたリビング。広くとられたキッチンスペースは料理がしやすそう。ダイニングテーブルを見ると、これから料理されるのを待つみずみずしい野菜が並んでいます。「おいしそうだったから、イチジクやぶどうも買って来ちゃいました」と照れたように笑う昌代さん。
出身は愛知県田原市。キャベツやメロンの専業農家に生まれた昌代さんは、結婚を機に浜松市南区へ。野菜ソムリエになったのは、地元野菜などを販売する竜洋海洋公園レストハウス「しおさい竜洋」でアルバイトを始めたことがきっかけでした。
「働き始めてから知ったんですが、磐田市って高級食材の海老芋や白ねぎが有名で、とってもおいしい。もっといろんな野菜を知りたいなと思って、野菜ソムリエ初級の資格を取りました」
出産と子育てのために退職して数年後。浜松市南区にあるファーマーズマーケット白脇店で、しおさい竜洋で一緒に働いていた野菜ソムリエの先輩と再会します。
「話をすると、ファーマーズを退職するので、代わりに働いて欲しいというものでした。野菜ソムリエ初級では心許ないと思い、野菜ソムリエプロ(中級)の資格を目指すことに。合格率は3割ほど。試験前の1週間は仕事を休ませてもらい、図書館で猛勉強してなんとか合格することができました」
野菜ソムリエプロになるには、野菜の産地や歴史、食べ方、流通など、幅広い知識が求められます。それが野菜の数だけあるわけだから、その知識量は相当なもの。
「たとえばトマトは春がおいしいんですけど、それは朝晩の寒暖差によって糖度が上がるから。新鮮なトマトは、うま味成分であるグルタミン酸が豊富で、これは母乳と同じ味といわれています。トマトが嫌いだった息子に新鮮なトマトを食べさせたら、がつがつ食べて(笑)。トマトが苦手な人は、新鮮な春のトマトを食べればきっと好きになりますよ」
甘酢で漬けたエシャレット
浜松では多種多様な野菜が作られ、一部のファーマーズでは料理人が使うような珍しい野菜も販売しています。どうやって食べたら分からないものは、野菜ソムリエに聞いて欲しいとのこと。
「新鮮な野菜はそれだけでおいしいから、味付けもシンプルで大丈夫ですよ。最近は働きながら子育てをするお母さんが増えています。子どものために栄養のある食事を作りたいけれど、毎日献立を考えるのも大変だし、そもそも忙しいし、うまくいかなくて自己嫌悪になったり。そんなに手間をかけずに作れるレシピもあるので気軽に相談してくださいね」と、子育てしながら働く昌代さんは野菜の先生というより、料理好きなお母さんのようでした。
(後編につづく)