野菜を通じて、顔の見える関係をつくる(後編)


人の想いを伝える仕事

野菜ソムリエの仕事は天職と思うくらい、自分に合っていると話す昌代さん。ファーマーズで働くだけに飽き足らず、自ら農家さんを訪ねることもしています。先日も南区は五島地区の農家さんを訪ね、ママと子どもを対象にしたアスパラの収穫体験を企画。

「アスパラってよく食べるけれど、ほとんどの人はスーパーの売り場に並んだ姿しか知らないと思います。だから、どんな風に栽培されているか見てもらいたかったし、取れたてのアスパラがどんなにおいしいか知って欲しかったんです」と企画した理由をうれしそうに話す昌代さん。

土から生えるアスパラに、子どもたちも興味津々

お昼には農園にあるピザ窯で、収穫したばかりのアスパラを使ったピザを作り、農家さんを交えて食事やおしゃべりを楽しんだそう。

いちごやみかんといったフルーツ狩りはしたことがあっても、農家さんの話を聞きながら野菜を収穫することはほとんどないのではないでしょうか。だからこそ、農家さんと消費者をつないでいくことは、野菜ソムリエの大切な仕事の一つだと昌代さんは考えます。

とうもろこしご飯は芯も一緒に炊くと、おいしく仕上がる。

新鮮な野菜は切って、蒸すだけ。

レシートには生産者さんの名前も印字されている。

たとえば、ファーマーズに納品に来た農家さんから、雨が多くて野菜が育たないという話を聞いたとします。それを接客時にお客さんに伝えるだけで、「形は小さいし、品揃えが悪いな」という印象から、「大変だったね、大事に食べないと」という共感に変わる。伝えるということが、どれだけ大切かを教えてくれるエピソードです。

「アスパラの収穫体験をさせてもらった農家さんは高い技術と知識を持っていて、若い農家さんを育てる教室を開いています。そこを卒業された20代の農家さんと一緒に店頭販売したことがあるんです」

取材は少し休憩して、みんなで昼食。色とりどりの野菜がきれい。

とうもろこしご飯にはバターをのせて、お好みでコショウを振っても。

「彼が育てたなすやピーマンを使って私が試食用の料理を作り、彼がお客さんにどんな風に育て、どんな味がするかを説明するというもの。お客さんも農家さんと直接話せるし、おいしい食べ方などを教えてもらえるから、とても喜んでくれて」と声が弾みます。

「野菜に何を求めているかは、人それぞれ。安い方がいいなって人もいますが、私は農家さんがどんな想いで作っているかといったストーリー性をとても大事にしています」

南区ではイチジクをはじめ、フルーツの栽培も盛ん。

近所の友だちも一緒に。いつもよりたくさん食べる子どもたち。

ただそこに陳列された野菜と、あの農家さんから買った野菜では、同じ野菜なのに後者の方がなぜかおいしく感じてしまうし、いただくという気持ちが自然とわいてくる気がします。毎日の暮らしに必要な食べ物だからこそ、誰から買うかが重要なのではないでしょうか。

「農家さんの顔が見えて、対面で買えるファーマーズマーケットがあったらいいですよね。そういう買い方を続けると、食べ物だけでなく、暮らしも大切に扱うようになりますから」


料理をすることが好きで、自分のことを食いしん坊だと笑う昌代さん。野菜を通じて出会ったのは、思いを持って大切に野菜を育てる農家さんと、自分らしい生き方なのかもしれません。